BOAI10 Japanese Translation

プロローグ:10年後のブダペスト・オープンアクセス・イニシアティヴ

 

10年前、ブダペスト・オープンアクセス・イニシアティヴ(BOAI)は、今後すべてのピアレビューされた研究成果へのオープンアクセス(OA)を求める世界的運動を始めた。BOAIはオープンアクセスの概念を初めて考案したわけではない。むしろ、既存のいくつかのプロジェクトを慎重にまとめ、「より広く深く速く成功を収めるため」にこれらのプロジェクトがどのように「協力し合える」かを探ったのである。しかし、BOAIはこの目的のために「オープンアクセス」の用語を用いた初めてのイニシアティヴ(改革運動)であり、また、定義を明確に公表し、オープンアクセスを実現するための相互補完的な複数の戦略を提案し、オープンアクセスの必要性をすべての分野と国に対するものとして一般化し、十分な資金提供を伴っていたのもBOAIが初めてだった。

今日我々は、この世界的運動のスタート地点にはもはやいない、しかしまだゴール地点には達していない。我々は確実に道の途中まで来ており、そしてこの10年間の経験を生かして、次の10年間に向けた新しい提言を行うこととする。

我々は、BOAIの「原則に関する声明、…そして、戦略に関する声明、…さらに、関与に関する声明」を再確認する。さらにまた、このような「先例なき公共善」を実現することと、「研究を加速し、教育を豊かなものとし、富める者の学術を貧しき者と、貧しき者の学術を富める者と共有し、この文献を可能な限り有用なものとし、共有された知的会話と知識の探求を行うなかで人類を一体化するための基盤を築く」ことへの希求を再確認する。

「我々の目標は到達可能であり、たんに望ましいだけであるとか、夢想的なものにすぎないようなものでない」という確信を我々は再確認する。この10年間に起きたことで目標の到達可能性を低めたものなどない。むしろ、オープンアクセスはすべての分野で定着し増大してきている。我々は、オープンアクセスをどのように実現するかについて、10年相当以上の実践の知恵を得ている。オープンアクセスの技術的、経済的、法的実現可能性については、十分に検証ならびに実証されてきている。

この10年間に起きたことでオープンアクセスの必要性や時宜性を弱めたものなどない。むしろ、依然として「科学者や学者たちは、…支払われる報酬もなく」また「報酬を期待することもなく、その研究成果を学術ジャーナルで出版している」。さらに、学者は通常、報酬を期待することなく、査読者や編集者として査読に関わっている。しかし、少なからぬ場合において、ピアレビューされた研究文献へのアクセスに対する障壁はいまだ強固に残っており、この障壁は、著者や査読者、編集者ではなく仲介者の便宜のためのものであり、また、研究、研究者、研究機関を犠牲にして設けられている。

最後に、この10年間に起きたことで、目標の価値を低めたり、到達する価値がないと示唆したりするものなどない。むしろ、知識を利用し、応用し、増進することができる誰もがその知識を利用できるようにすることの緊急性は、いまだかつてなく切迫している。

我々は、BOAIで提唱されている2つの主要な戦略を再確認する:リポジトリを通したオープンアクセス(「グリーンオープンアクセス」とも呼ばれる)とジャーナルを通したオープンアクセス(「ゴールドオープンアクセス」とも呼ばれる)である。10年間の経験により、我々は、グリーンオープンアクセスとゴールドオープンアクセスは「この到達点への直接的で効果的な手段であるだけでなく、学者自身のすぐ手の届くところにあり、市場や法制度によってもたらされる変化を待つ必要などない」と再確認することができる。

10年間の経験により、我々は、最初のBOAIで取り入れられたオープンアクセスの定義を再確認することができる:

[ピアレビューされた研究文献]への「オープンアクセス」とは、それらの文献が、公衆に開かれたインターネット上において無料で利用可能であり、閲覧、ダウンロード、コピー、配布、印刷、検索、論文フルテキストへのリンク、インデクシングのためのクローリング、ソフトウェアへデータとして取り込み、その他合法的目的のための利用が、インターネット自体へのアクセスと不可分の障壁以外の、財政的、法的また技術的障壁なしに、誰にでも許可されることを意味する。複製と配布に対する唯一の制約、すなわち著作権が持つ唯一の役割は、著者に対して、その著作の同一性保持に対するコントロールと、寄与の事実への承認と引用とが正当になされる権利とを与えることであるべきである。

オープンアクセスの採用と実現をこれまで妨げてきた諸問題は解決され、その解決策は広まってきている。しかしオープンアクセスがさらに広まるまでは、オープンアクセスを解決策とする諸問題は、ほとんど未解決のままだろう。この声明において、我々は最初のBOAIの目的と手段を再確認するとともに、さらに前進することをあらためて表明する。しかしそれだけでなく、我々は、次の10年間のうちにすべての分野とすべての国において、オープンアクセスが、ピアレビューされた新規の研究成果を配布するための当然の方法となることという新たな目標を明確に設定する。

 

次の10年間に向けた提言

1. ポリシーについて

1.1 すべての高等教育機関は、所属教員が将来執筆するすべての学術論文のピアレビューされたバージョンが所定のリポジトリに登載されることを保証するポリシーを持つべきである。(機関リポジトリに関する本提言3.1を参照のこと)

  • リポジトリへの登載は、可能な限り早期に、理想的には採択決定の時点で、少なくとも公式の出版日に遅れることなくなされるべきである。
  • 大学のポリシーは、自分が選んだジャーナルに新規の業績を投稿する教員の自由を尊重すべきである。
  • 大学のポリシーは、オープンアクセスジャーナルでの出版を奨励すべきである。ただしそれを要求してはならない。そして、オープンアクセスリポジトリへの登載とオープンアクセスジャーナルでの出版の区別について、教員の理解を促すべきである。
  • 可能であれば、大学のポリシーは教員による投票によって採択すべきであり、遅延のないオープンアクセスを要求すべきであり、所定の範囲を超える登載(たとえば、データセット、学会発表資料、図書または図書の一部の章、ポリシー制定以前の著作、等)も歓迎すべきである。
  • 大学が望む条件に基づくオープンアクセスを出版者が認めようとしない場合、次の二通りの対応策のいずれかを推奨する。すなわち、ポリシーによって、オープンアクセス化の許可が得られるまでの間、非公開(dark)すなわち非オープンアクセスのリポジトリ登載を要求してもよいし、あるいは、ポリシーによって、教員による将来の研究論文を機関リポジトリによってオープンアクセス化するという非排他的な権利を機関に与えるようにしてもよい(特定の成果発表について教員がこの権利付与を回避するというオプションはあってもなくてもよい)。

1.2 上級学位を授与するすべての高等教育機関は、今後新たな学位論文が、採択決定後速やかに当該機関のオープンアクセスリポジトリに登載されることを保証するポリシーを持つべきである。公刊や特許申請を希望する学生からの要請があった場合は、登載を免除するのではなく、合理的な猶予期間を与えるに留めるべきである。

1.3 すべての研究助成機関は、公的機関であるか私的機関であるかにかかわらず、助成研究に基づく今後の全ての学術論文のピアレビューされたバージョンが、適切なリポジトリに登載され、実現可能な範囲でできる限り速やかにオープンアクセスとなることを保証するポリシーを持つべきである。

  • リポジトリへの登載は、可能な限り早期に、理想的には採択決定の時点で、少なくとも公式の出版日に遅れることなくなされるべきである。
  • 出版者が、研究助成機関の条件に基づくオープンアクセスを許容しようとしないとき、そのポリシーは、被助成者に対して、別の出版者を探すことを要求すべきである。
  • 研究助成機関のポリシーは、新規業績がオープンアクセスになるまで猶予する期間を認めるとしても、その期間が6カ月を超えるべきではない。また、ポリシーは、著作権によって保護され得ない業績については猶予期間を認めるべきではない。
  • 研究助成機関は、出版コストを研究コストとして取り扱うべきである。また、費用著者支払い型のオープンアクセスジャーナルにおいては、被助成者が妥当な費用を支払うことを支援すべきである。
  • 可能であれば、研究助成機関のポリシーは自由な(libre)オープンアクセスを要求すべきであり、とくにCC-BYの許諾条件ないし同等の条件によることがより望ましい。
  • この目的のために適当なリポジトリは、オープンアクセスを実現し、他のリポジトリとの相互運用性を有し、長期保存に取り組んでいるリポジトリである。研究助成機関によるリポジトリの選択は、対象とする論文の登載がどのようにすれば増進するか、登載の効用、助成機関及び著者にとっての利便性、オープンアクセスのさらなる進展促進などの問題に関して現在行われている研究によって決定されるべきである。

1.4. 大学および研究助成機関のオープンアクセスポリシーはすべて、採択決定の日と出版の日の間における適切なオープンアクセスリポジトリへの登載を要求するべきである。メタデータは入手可能となり次第、すぐに登載されるべきであり、その時点でオープンアクセスであるべきである。フルテキストは、リポジトリがそれをオープンアクセスとすることの許可を得次第、オープンアクセスとするべきである。

1.5. 我々は、ジャーナルや論文や著者の質を示す代用指標としてジャーナル・インパクト・ファクターを使うことを控えるように求める。不当な単純化に陥る程度が少なく、もっと信頼性の高い、完全に使用や再利用が自由なインパクトと品質を表す代替的指標の開発を奨励する。

  • 大学、研究助成機関および研究評価事業が個々の論文のインパクトを測定する必要がある範囲においては、ジャーナル・レベルの指標ではなく論文レベルの指標を使用するべきである。
  • 我々は、新しい指標の正確さについての研究調査を奨励する。その調査研究が新しい指標が有用で、信頼できることを明らかにするにしたがって、大学(昇進と終身在職権に関する教員の評価において)、研究助成機関(研究助成の際の申請者の評価において)、研究評価事業(研究のインパクトの評価において)および出版者(出版物の販売促進において)によるそれぞれの使用を奨励する。
  • 我々は、ジャーナル・インパクト・ファクターがいかに誤用され、また、多くの機関が従来インパクト・ファクターを使用してきた目的に対し、代替的指標がずっと役に立つかを説明する資料を作ることを奨励する。
  • インパクト指標が改善されるのに応じて、我々はオープンアクセスとオープンアクセスのポリシーが研究インパクトを向上させるか否かという疑問をさらに検討することを奨励する。

1.6. 機関リポジトリを持った大学は、昇進、終身在職権、およびその他の形態の内部評価と点検のために、検討対象となるすべての研究論文をリポジトリに登載することを要求すべきである。

  • 同様に、研究評価を行う政府は、国レベルの評価を目的として検討する研究論文のすべてをオープンアクセスリポジトリに登載するよう要求するべきである。
  • 大学のポリシーについても、政府のポリシーについても、これ以外の種類の証拠を検討対象とすることを制限したり、評価の基準を改めたりするものとして解釈すべきではない。

1.7. オープンアクセスを提供しない出版者は、少なくとも正式な出版契約を通じてオープンアクセスを許可すべきである。

  • 出版者は公共の利益を目指す政府に反対するロビーイングを自制し、研究者と研究の利益を目指す研究機関に反対するロビーイングを自制すべきである。出版者は公共の利益や研究者および研究の利益に反対して、業界団体の名の下で行われるロビーイングの展開との関係を否定すべきである。
  • 支払いなしと猶予期間なしの著者主導型のグリーンオープンアクセスを未だに許可していない、購読料に依拠する少数の出版者たちは、多数派の立場を踏襲すべきである。
  • 我々は、研究者たちが自分たちの利益に反して行動する出版者のために、著者、編集者あるいは査読者としての役割を果たす必要はないことを、研究者たちに対して注意喚起する。

2. ライセンスと再利用について

2.1. 我々は、学術的著作の公表、配布、使用と再利用のための最適なライセンスとして、CC-BYもしくはそれと同等のライセンスを推奨する。

  • オープンアクセスリポジトリは一般的に著者または出版者といった他者からの許可に依存しており、オープンライセンスを要求することができる立場になることはまれである。しかしながら、リポジトリへの登載を指導する立場にあるポリシー立案者は、オープンライセンス、とくにできればCC-BYを要求するべきである。
  • オープンアクセスジャーナルは常にオープンライセンスを要求することができる立場にある。しかしながら、その多くはこの好条件を十分に生かしていない。我々は、すべてのオープンアクセスジャーナルにCC-BYを推奨する。
  • 戦略を策定し、優先順位をつける際、有料の(priced)アクセスより無償の(gratis)アクセスのほうが望ましく、無償(gratis)のアクセスよりも自由な(libre)アクセスのほうが望ましく、CC-BYないし同等の条件による自由なアクセスのほうがより制限的なオープンライセンスよりも望ましいと認識する。我々はできる時、できる事を成し遂げるべきである。自由なアクセスを達成するために無償のアクセスを達成するのを遅らせてはならない。そして、自由なアクセスを達成できるときに、無償のアクセスにとどまってはいけない。

3. 基盤と持続可能性について

3.1. すべての高等教育機関は、独自のオープンアクセスリポジトリをもつか、共同リポジトリを運用するコンソーシアムに参加するか、外部のオープンアクセスリポジトリサービスを利用するかすべきである。

3.2. すべての分野、すべての国で論文を発表するすべての学者(高等教育機関に所属しない者も含む)はオープンアクセスリポジトリに登載する権利を持つべきである。

  • このためには、機関リポジトリ、主題リポジトリ、もしくはその両方が更に必要になるだろう。また少なくとも短期的には、自分が所属する機関にも、自分の研究分野にもリポジトリが用意されていない学者のために、万人向けリポジトリ、すなわち、最後の頼みの綱となるリポジトリが、さらに多く必要とされるかもしれない。万人向けリポジトリの利用者インターフェースに掲げるテキストはいくつかの言語で提供されるべきである。

3.3. オープンアクセスリポジトリは他のオープンアクセスリポジトリからハーベストし、また他のオープンアクセスリポジトリに再登載する手段をもつべきである。

  • 複数のリポジトリに登載する理由がある研究者は、一度だけどこかに登載すればよいようにするべきである。可能である場合には、機関リポジトリは、論文を著者から要望された主題リポジトリ(例えばarXiv, PubMed Central, SSRN)に再登載することを申し出るべきである。また、主題リポジトリに登載された教員による出版物のコピーをハーベストするか、ダウンロードするべきである。

3.4. オープンアクセスリポジトリは、著者がダウンロード、使用、引用情報を利用することを可能にし、代替的なインパクト測定指標(alternative impact metrics)を計算するツールが利用できるようにするべきである。ジャーナルの出版者は、そのジャーナルがオープンアクセスであるかどうかにかかわらず、同じことを行うべきである。

  • リポジトリは、これらのデータを標準的フォーマットによって互いに共有し、(例えば)著者が複数のリポジトリに登載されたひとつの論文のダウンロードの総数を知ることができるようにするべきである。また、正確なアクセス数を計測できるようにするためだけに、他のリポジトリでの再登載を阻止することに関与すべきでない。

3.5. 大学や研究助成機関は、著者に対して、料金を課すオープンアクセスジャーナルへ投稿する際の妥当な出版料金の支払いを手助けし、料金を課さないオープンアクセスジャーナルを支援ないし助成するための同等の方法を探すべきである。

  • いずれの場合も、金銭的なサポートの条件として、オープンライセンス下の自由なオープンアクセス、できればCC-BYもしくはそれと同等のライセンスを要求するべきである。
  • ピアレビューによるオープンアクセスジャーナルをこれらの方法で支援することは、購読ジャーナルのキャンセルやタイトル変更によって節約できた資金を利用する最優先事項であるべきである。
  • ピアレビューによるオープンアクセスジャーナルを支援することは、比較的小規模な国内法を中心としたジャーナルや特定地域の言語を使って出版されるジャーナルなどのように読者が比較的限定されているジャーナルおよび、レビュー論文を著者に依頼するレビュー・ジャーナルなどのように出版手数料を徴収することが不適切なジャーナルにとってはとりわけ重要になる可能性がある。

3.6 購読料を基盤とするジャーナル、すなわち非オープンアクセスのジャーナルが何らかの形のセルフアーカイビング、すなわちオープンアクセスリポジトリへの論文登載を許容している場合は、当該ジャーナルは、オープンな標準に準拠した、人間にもコンピュータにも可読である厳密な用語を使ってその許容する内容を記述すべきである。その記述は、少なくとも、登載が許されるバージョン、登載のタイミング、登載されたバージョンに付属し得るライセンスを含むべきである。

3.7 オープンアクセスリポジトリは、PDF形式の登載文書をXMLなどの機械可読フォーマットに変換するツール(これは既に無償で提供されている)を提供するべきである。

3.8 研究助成機関も含めて、研究機関は、オープンアクセスの進捗と持続可能性にとって不可欠なツール、資源案内、諸電子資源の開発と維持を支援すべきである。

  • 不可欠なツールの一覧表は将来、時間とともに変化するが、以下のものは含まれる。すなわち、オープンアクセスリポジトリとオープンアクセスジャーナル、無料かつオープンソースのリポジトリソフトウェア、無料かつオープンソースのジャーナル管理ソフトウェア、テキストマイニングやデータマイニングのためのツール、オープンアクセスジャーナルとリポジトリの資源案内、大学と研究助成機関のポリシーの案内、オープンライセンスの提供者、デジタル保存サービス、カレント・アウェアネス・サービス、クロスリンクや永続的URLのサービス、そして、サーチエンジン。
  • 研究機関は、オープンアクセス化された研究の発見されやすさ、検索されやすさ、有用性をより高めるために出版者とリポジトリが実装することができる、メタデータとクエリのための世界的かつオープンな標準の確立も支援すべきである。

3.9 我々は、公表された文献からの参考文献すなわち引用文献の書誌を収集するためのツールを改良し、利用すべきである。誰が誰を引用したのかということに関する事実はパブリックドメインに帰属するものであり、利用、再利用、分析に供するため、標準のフォーマットにおいてオープンアクセスとなっているべきである。このことは、研究者と研究機関が文献そのものにアクセスすることができなくても、どんな文献が存在するかを知り、アクセスとインパクトの新しい指標を開発する一助になるであろう。

  • 我々は、全ての出版者に対して、この取り組みへの協力を強く要請する。
  • 我々は、参照データが出版者、著者、ボランティア、第三者の起業家もしくはソフトウェアによって登載されることが可能であり、参照データがオープンアクセスな配布のために提供され得るような基盤の開発を推奨する。

3.10 我々は、非オープンアクセス出版物を含むすべての新旧の出版物に対して、標準フォーマットによってオープンアクセスメタデータを収集し、組織化し、普及させることを支援すべきである。

3.11 学術出版者は、オープンな標準に基づき無償で提供される、クロスリンクや永続的URLの基盤を必要としており、それはパラグラフレベル、イメージレベルおよびアサーションレベルの識別といったような任意レベルでの精度の特定とリンクづけを可能にする。

3.12 我々は、相互運用性のためのオープンな標準と、オープンアクセスジャーナルとリポジトリにそれらを実装させるためのツールの更なる進展を奨励する.

3.13 我々は、出版物公表後の査読とその有効性についての研究が様々な方法で実験されることを奨励する。

  • リポジトリを利用したオープンアクセス、ジャーナルを利用したオープンアクセス、書籍を利用したオープンアクセスはいずれも、伝統的な出版前ピアレビューを行なうすべての種類のシステムと共存できるものであり、オープンアクセスはピアレビューのいかなる特定の形式を前提するものでもない。我々が出版後査読についての実験を推奨するのは、それがより優れたものである可能性はあるにせよ、その理由からではなく、そのようなピアレビューによって、新たな業績がオープンアクセスになるまでの遅滞が少なくなり、最初の出版のコストが縮減し得るからである。

3.14 我々は、本文テキストが基礎的データ、マルチメディア要素、実行可能コード、関連文献およびユーザーのコメントと便利な形で統合された形をもつ新しい種類の学術研究「論文」や「書籍」に関する実験を奨励する。

  • 我々は、研究の発展のために、デジタルメディアやデジタルネットワークを、よりよく活用するための実験を奨励する。
  • 我々は、オープンアクセス論文が、人間にとって存在するアクセスの障壁だけでなく、機械にとっての障壁を排除する手段をよりよく活用するための実験を奨励する。
  • 我々は、オープンな標準とフォーマットの利用を促進するためにこれらの利用と、それらの有効性に関する研究とを奨励する。

4. アドヴォカシー(advocacy)と協調(coordination)について

4.1ライセンシング、編集プロセス、投稿勧誘、権利所有の開示、出版手数料の処理など、オープンアクセス出版実施の専門家としての行動基準について出版者、編集者、査読者、研究者の意識を高めるために、我々はこれまで以上のことをすべきである。編集者、査読者、研究者は、出版者とジャーナルとに関与する機会を評価する際、そのような専門家としての行動基準にもとづくべきである。出版者がそのような行動基準を満たさないとき、第一段階としては、出版者によるその改善を支援すべきである。

  • 新しいオープンアクセス出版者、オープンアクセスジャーナル、あるいはこれまで知られていなかったオープンアクセス出版者、オープンアクセスジャーナルを評価する手段として、我々は、研究者がオープンアクセス学術出版者協会(OASPA)に助言を求め、OASPAの行動規範(code of conduct)を参照することを推奨する。OASPAの会員機関はこの行動規範によって加入審査されている。したがって、OASPAの会員である出版者についての苦情や行動規範の改善という提案は、OASPAに送付されるべきである。
  • すべてのオープンアクセス出版者とオープンアクセスジャーナルが、OASPAの推奨する優良事例を実践するか、あるいはOASPAの会員になろうとすることを奨励する。会員になることによって、業務の点検と必要に応じて業務改善の機会とが伴う。

4.2 我々は、オープンアクセスポリシーを検討している大学や研究助成機関に適用可能なガイドラインを作るべきである。ガイドラインは、推奨されるポリシーの用語、優良事例、FAQに対する回答などを含む。

4.3 我々は、最も適切な数値と図表によってオープンアクセスの進捗を簡単にたどることができる統合された情報源の開発を奨励する。個別の情報は定期的に更新され、情報の出所や計算処理の方法が明示されるべきである。

4.4 オープンアクセスコミュニティは以前よりも多くの場面で協調して行動すべきである。可能であればどこでも、オープンアクセス団体と活動家は、情報源の利用を改善し、活動の重複を最小限にし、メッセージを強化し、結束を示すために、それぞれの活動とコミュニケーションとを協調させる方法について、あらゆる可能性を探るべきである。

  • 我々は、相互にコミュニケーションし協調するためのよりよい仕組みを作るべきである。
  • 我々は、同僚の研究者、学術出版者、主要な学術界外部の出版者にまで接触する努力をすべきである。学術界の内部か外部かを問わず、メディアがこれほどまでにオープンアクセスを理解し、関心を示したことは歴史上ない。この機会は、すべてのステークホルダーに対してオープンアクセスとその推進のための新たな提案を知らしめることを支援するためのものである。

4.5 研究論文へのオープンアクセスを求める世界的なキャンペーンは、図書へのオープンアクセス、学位論文へのオープンアクセス、研究データへのオープンアクセス、政府データへのオープンアクセス、教育資源へのオープンアクセスやソースコードへのオープンアクセスなどに対する世界的なキャンペーンとより密接に協働すべきである。

  • 我々は、研究論文に対するアクセスに直接の関連が少ない同種の努力とも協調すべきである。例えば、そのようなものとして、著作権改革、孤児著作、デジタル保存、印刷体文献のデジタル化、エビデンスベースのポリシー決定、言論の自由、図書館、出版、ピアレビュー、ソーシャル・メディアの進化発展などがある。
  • 我々は、共通の原則を擁護する際、分散して行われる意見表明を増幅する方法を探るべきである。

4.6 我々は、オープンアクセスに関する下記の真実を、より多くの証拠とともに、より多くのステークホルダーに、より明確に表現する必要がある。

  • オープンアクセスは研究と研究者を利するものであり、オープンアクセスの欠落は両者を侵害する。
  • 公的資金による研究成果に対するオープンアクセスは、納税者の利益になるものであり、納税者が研究に対して行なった投資による還元を増加させる。オープンアクセスは、学術的な利益だけでなく、経済的な利益をももたらす。
  • オープンアクセスは研究の社会的価値を高め、オープンアクセスポリシーは研究助成機関と研究機関の社会的価値を高める。
  • オープンアクセスのコストは現状の学術コミュニケーションのシステムに加えてより多く支出することなしに回収が可能である。
  • オープンアクセスは世界のどこの著作権とも矛盾せず、また、著者と読者の両者に対して、従来の出版契約下の権利より多くの権利を与える。
  • オープンアクセスは、高度な水準の質を維持することと矛盾しない。
2012年9月12日
ハンガリー, ブダペスト

日本語翻訳: 時実象一(愛知大学)およびDigital Repository Federation翻

訳チーム(西薗由依(鹿児島大学)、杉田茂樹(小樽商科大学)、稲永晶子(琉球大

学)、加藤信哉(名古屋大学)、小笠原静華(大阪大学)、城恭子(北海道大学)、内

島秀樹(筑波大学))、土屋俊(大学評価・学位授与機構)

Japanese translation by Soichi Tokizane, Aich University, the Digital Repository Federation (DRF) Translation Team, on which are Shouko Inenaga, University of the Ryukyus Library, Kyoko Jo, Hokkaido University Library, Shinya Kato, Nagoya University Library, Yui Nishizono, Kagoshima University Library, Shizuka Ogasawara, Osaka University Library, Shigeki Sugita, Otaru University of Commerce Library, and Hideki Uchijima, University of Tsukuba Library, and Syun Tutiya, National Institution for Academic Degrees and University Evaluation.